日本の自動車メーカーは国際競争力を維持できるのか?

2022年09月04日
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株式投資

わたしは半導体メーカー勤務ながら車載センサーを通して自動車の開発に深く携わって自動車及び自動車部品業界の真ん中近くにいたという実感はあります。主にエンジン、トランスミッション、ブレーキ、車体制御などの開発に関係していました。キーワードで言うと、環境性能、安全性能、燃費技術などです。日本に残った数少ない世界をリードする競争力を持った業界で働けたことは本当に幸せだったなと思います。時々日本の自動車業界の将来についてどう思うかということを聞かれたりもします。高い競争力を今後も維持できるかどうか?です。この点について議論する場合に日本の自動車業界は何が強いのか?ということを理解しておく必要があります。いろんな言い方はありますが一番手短にわかりやすくお話をしてしまうと日本の自動車業界が強いと言うよりトヨタとホンダが強いのです。かつてはそれに加えて日産がありました。それ以外の会社も別にダメな会社でもないのですけど、日本の自動車メーカーの競争力の象徴はトヨタとホンダなのです。だから今後もトヨタとホンダが世界的競争力を維持できるかという視点で見ていけばそんな的外れなことにはならないと思います。これがひとつの視点。

もうひとつは業界構造の変化です。自動車業界に限らずどの業界も常に変化しつづていきますが、自動車のような技術の業界の大きな特徴は非可逆的な変化をするということです。一度起きた変化は揺り戻して元に戻らないのです。例えば自動車業界は歴史的には長いことアメリカがリードしていました。でもアメリカの自動車メーカが世界の自動車業界をリードするという構図は崩れて久しいです。ビジネスとしてそれなりに生き残っていられるのは北米という巨大な市場があるからです。日本市場はすでに自動車業界にとって重要な市場とはみなされていませんので日本市場を頼りにトヨタやホンダが生き残っていくというシナリオはないでしょう。だからこそトヨタとホンダは世界でのプレゼンスを失えないわけです。業界構造として今進んでいる自動車業界の大きな変化は一体誰がキープレーヤーかということです。自動車メーカーが圧倒的に強く部品メーカーをコントロールしていた時代はどうも怪しくなってきています。これまではなんだかんだと言ってエンジンの開発は自動車メーカーのものだったのです。

それ以外は部品メーカにある程度任せられますけどエンジンは自分で開発するのが自動車メーカーでエンジン性能は製品としての自動車の競争力に直結します。極端な話エンジン以外はあまり変わらない。あくまでも極端な話ですよ。ブレーキとかハンドリングで車を買う人はマニアです。エンジンパワーはトランスミッションで伝達されるのでトランスミッションも重要ですが、トヨタは自社とグループの中核企業でしかやっていません。ホンダはトランスミッションはほぼ自分で作っています。だからこそ自動車技術のコアを自動車メーカーが維持してきた。さて電気自動車にはそのエンジンとトランスミッションがありません。これだとパソコンの箱屋と同じで自動車メーカーが箱屋に成り下がるかもしれない。そしてどんどん新しい自動車メーカーが生まれる可能性は高い。その時にどうやって差別化するか?内装とか?

そうなるのはいつのことかはわかりませんが確実に進行しています。覚えておいていただきたいのはこの変化も非可逆的だということです。一度失った主導権は返ってこないでしょう。日本の自動車メーカーの将来の競争力はおそらく日本企業の世界でのプレゼンスに大きな影響があると思います。日本の産業はいつかまた復活すると思いたい気持ちはわたしにもありますが、じゃあ具体的にどの業界でどの会社なんだということです。それがもし見えないなら10年20年はこのままでしょう。今は自動車がどれだけ持つかという話です。GAFAだって忽然と出現したわけではないのです。木を見て森を見ずという言葉もありますが、木のない森はないのです。ちゃんと木を植えて育てないと決して森になりません。それには時間がかかるしなんとなくでは起きないでしょう。
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