<元業界専門職のつぶやき>日本は水素社会(燃料電池車=FCV)になるのか?

2020年12月13日
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株式投資

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トヨタの年次報告書より
今後トヨタがどこに向かうのか?模索している様子が伺えます
(後述します)

脱炭素社会の目玉として注目されている水素(燃料電池)ですが、水素社会と言っても乗用車が水素になるのかならないのかで全く話が違ってくるわけです。乗用車が水素にならないと水素関連の会社が大きく売上を伸ばすというシナリオはかなり怪しくなります。最近新聞などで、日本は水素社会へと向かうなどと報道されて、トヨタもFCVの新型を発表などしているので、日本はFCVが乗用車の主流になるのかと思い込んでいる人もいるかもしれませんが、ことはそう単純ではないでしょう。日本で詳しく報道されていない裏事情とグローバルな視点から理解する必要があります。

鉄道、船舶、大型トラック、などの産業用が世界的に水素に向かう方向性は高まっていると思います。実際技術的にもインフラ的にも、産業分野は燃料電池と親和性が高い。限られた水素供給ステーションで超長距離輸送ならEVよりFCVには有利でしょう。だから中国とかヨーロッパでも産業用を燃料電池にする動きは加速している。ただこれらの市場は全部合わせても乗用車の市場規模には遠く遠く及ばない。桁が一ついや二つくらい違う感じです。乗用車の市場というのは圧倒的に大きいわけです。

日本は産業用はもちろん、乗用車も水素にしたいという意向を持っていて、政府も水素を主役に据えると発表はしています。ただFCVは世界的に見てはピュアEVに対して劣勢にある。日本以外は乗用車はピュアEVという流れなのです。もしこのまま世界の趨勢が水素でなくEVに向かうのであれば、結局日本もFCVを諦めざるをえません。なぜなら乗用車市場における日本の市場はとても小さな存在で実際トヨタやホンダにとってもメインのビジネスは海外のわけです。

世界で商売をする以上、日本向けだけにFCVを作っていても採算が合うわけもない。それどころか、海外から輸入されるピュアEVに対抗するために日本もEVにならざるを得ない。今のところ日本の政府関係者も自動車メーカー関係者もFCVを諦めたなどとは言っていませんが、それは表向きの話で、まあたぶん乗用車はEVにならざるを得ないかなと思っているのではないでしょうか。でもEVでは新興勢力に対して差別化できない。だからこそトヨタなどは乗用車メーカーから脱皮してモビリティカンパニーになるなどと言い出しているわけです。いわゆる社会に密着したモビリティインフラサプライヤーで都市の交通機能をまるごと管理するようなイメージです。これが成功するかしないかはまた別の話ですが、いずれにせよトヨタは乗用車メーカーでは生き残れないというシナリオはリアルに意識しているわけです。

日本ではEVというと日産がまるで業界のリーダー的な位置にあると思っている人が多いわけです。リーフをいちはやく出して、いまはE-powerがまるでEVかのごとき印象を与えることに成功している。一方でトヨタやホンダはEVで遅れている指摘がありますが、これは遅れているのではなく、遅れているようなイメージを与えてしまったというのが本当のところです。技術的には日産よりトヨタの方がはるかに上で、EVなどいつでも発売できるのですが、ただFCVへの可能性を捨てきれない以上、またHVもPHVも相当期間主役であり続けるはずで、ここで自らEVに向かえば自分で自分の首を締める展開になってしまいます。ゴーンのもとでろくに基礎開発をしてこなかった日産はFCVどころかHV,PHVも守りたいなどという気持ちはさらさらないので、それで簡単にEVへと走れるわけです。日産は19年間のゴーン統治で技術的な基礎体力を大きく失いました。それをどうやって取り戻すのか? まったく見えません。ゴーンが暴走してゴタゴタしたけどしばらくすれば落ち着くというのは、甘い見通しかと思います。ゴーンは私生活に金を流用したという意味で暴走をしていますが、企業経営については19年間一貫していたと思います。基礎開発に金を使わず、インテリアやスタイリングとか顧客に訴求する機能で適当に売れる車を作れば良いという考えです。それで数字をあげて、そこでまたコストダウンをするの繰り返し。だから三菱自動車を買ったのです。わたしはたぶん三菱財閥の仕掛けたクーデターだと睨んでいますけど、ゴーン失脚の背景には天下の三菱がゴーンのおもちゃにならないぞという矜恃があったというわけです。

いかがでしょうか? 実際業界を去って8年ですので、自信もないしあまり書きたくはなかったのですけど、報道を含めて、世間であまりにわたしと違う理解の人が多いようで、それでわたしなりの見識を披露してみました。ただ現役の業界幹部では差し障りが大きすぎて書けない内容ですのである意味読み応えがある書き方ができたかもしれません。新しい技術もでてきているようです。全固体電池というのもあるとか。一方でFCVに大きな逆転技があるやもしれません。大きく状況を変えるなにかが出てくればまた新しい展開もあるのでしょう。ただ技術とグルーバルな視点、これは自動車産業を見る上でのキーワードということは変わらないと思います。


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Comments 3

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八五郎  

お礼

待ってました!
ハルトモさんがどう考えておられるのかぜひお聞きしたかった領域で、でもシャイだから質問できませんでした(笑)

経産省だかどこだかが出した2035年の未来予測でも、水素ステーションの数を全国160箇所と見込んでいたと思います。水素カーが乗用車の主力となるという想定ではおよそない数でした。まぁ産業用のイメージでしょうね。なのになぜ水素社会などと盛り上がるのか。盛り上がれば盛り上がるほど、自動車産業は自分の首を締めるんじゃないの?って思っていました。

2020/12/13 (Sun) 10:10

のらねこミーコ  

とても参考になります

とても参考になる、お考えを披露して頂きありがとうございます。
日本、そして世界でも、FCVが乗用車の主流になる時代が来るのか、難しいところだと、ド素人ながら思っていました。元業界専門職のお一人が考えていらっしゃることを、業界の裏事情も含めて知ることが出来て勉強になります。
水素(燃料電池)が産業用としては、その有用性がますます高まっていくのでしょうが、私的利用が主体の乗用車がFCVの主流になるのは、FCV乗用車の一層の低価格化と、水素供給ステーションの普及が鍵になるのでしょうね。「鶏が先か、卵が先か」というジレンマですか。

2020/12/13 (Sun) 13:45
川口晴朋(ハルトモ)

ハルトモ  

Re: とても参考になります

ミーコさん、コメントありがとうございます。もう少し説明が必要なようです。水素ステーションとFCVの低価格化は鶏と玉子の関係ではなく、言うならどっちも玉子なのです。グローバルでFCVの流れが主流となれば、当然水素ステーションの普及に予算もつき拡充が見込め、またfcvの市場が日本以外にも広がり、かつピュアEVとの消耗戦も避けられることでFCVの低コスト化も進むということです。グローバルでの乗用車FCVの流れが鶏になるわけです。逆に言うなら、いくら水素ステーションが設置されようが、日本だけの市場規模では戦えないということです。わかりにくけれ遠慮なくお知らせください。また説明します。ではまた。

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