ファミレスでランチ
2018年01月31日
中肉中背と言えばいいのか、きっと身長158センチで体重は55キロくらい。(細かい!)中年のどこにでもいそうな奥さん二人。わたしからは数メートルは離れている。なんの話をしているかは聞こえない。ファミレスの壁際のブース、隣が厨房への入り口で中から金属音とも思えるおそらく調理道具が擦れ合う音が、オーケストラのシンバルの準備運動のごとく響いている。店員の出入りも多いがなぜか無音である。音はしているのだろうがその音は気にならず何故か目にうるさい。
奥さんと書いたのは調子外れのシンバルに乗って「主人が、、」という声が聞こえたからだ。一人は背中を見せているので表情はよくわからないが、どうもたくさん喋っているのがその背中さん。こっちから顔が見える奥さんはやけに太い黒縁のメガネ、どうみても似合っているとは思えない。普段はコンタクトで、今日は気のおけない友人とのランチだからメガネということかもしれない。上着は横に置いているがチェックのマフラーはつけたまま。すぐに帰るつもりが話が長引いたか。
会話はずいぶんと弾んでいるようだ。背中さんが話すに合わせてそのお顔さんがうなづくがずいぶんと大げさに首を縦に振る。その動作と同時にデザートのアイスをこれまた上手に口に滑り込ませるのである。よく見るとカップを支える左手からスプーンを持つ右手まで位置関係が綺麗にうなづきにシンクロして動いている。まるでしなやかなジャガーのサスペンションがタイヤハウスの中でタイヤが踊るように動きながらショックを吸収しているかのようだ。
あれはなにか訓練をした結果の技なのであろうか? それとも天性? 自分がやれと言われても到底できそうにない動きである。わたしがやればきっと動きは似ているが、肝心のアイスはおそらく口には入るまい。良くても顎か鼻を直撃だろう。そう思ってすぐに理解する。そんな練習をする人間などいるわけがない。
一人の人間のさりげない動きがどうにも天才的で感嘆するということが最近富に多いと自分で感じている。一方である人間の動きが極めて不自然で、その不自然さはまるでわざとやっているかと思えるくらいで、であるならその意図はどこにあるのだろうか? どちらにせよ、わたしはまた妙な沈思黙考に沈むことになる。
この話をかみさんにしてみた。そして聞いてみた。「どう思う?」
返事は一言であった。「暇なのね」。
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