真意と表現

2017年10月30日
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人生の考え方
言葉を発する人間はまずその言葉そのものを受け取って欲しいと思っています。例えば、まったく同情していないにも拘らず哀れみの言葉をかけるとしても、自分は哀れんで同情していると、嘘か本当かは別にして、同情していると伝えたいわけです。いわゆる真意は別のところにあるとしても、あるいは真意だとしても、言葉はそう言っている以上そのまま取って欲しい、ということです。

人によってはこの真意と表現がひどく乖離します。時としてあけすけと言うかバレバレというか、それは概ねその人の言語能力も反映されますが、少なくとも言っている本人は破綻していないと自分で思っているなら、いわゆるヌケヌケと言えるということもあります。

もしもそれをあからさまに指摘すればそれは相手の怒りを招きます。言ってもいないのに勝手に人の腹をさぐられたくないのです。あるいは、ああこの人は人の言葉を素直に受け取れない人だなと、軽蔑までされるかもしれません。

言葉そのものは明瞭で真意を表現していたにも拘らず、それが問題発言とか失言であった場合に、実は真意ではなかったと抗弁する技術があります。政治家や役職の高い人がよく使う技です。誤解を招いたとか、言うわけです。言葉も真意もどっちも変幻自在ということになりますから収束がつきません。

聞き手と話し手の関係も重要です。片方が片方を簡単に騙せる関係、片方が何を言っても片方は決してそのまま受け取らない関係、いろいろあるでしょうが、これは今までのコミュニケーションの蓄積がものをいいます。どうにも信用できない発言が過去に繰り返されていると、素直に聞けないのはそれは当たり前です。

ただそのどうにも信用できないという根拠が、話し手にあるか聞き手にあるかはまたわかれます。少なくとも話し手は自分の発言を信じて欲しいと思って発言してきたわけですから、それを信用してもらえないのは不本意ということになります。聞き手がかってに勘ぐっていると感じたりします。実はその通り聞き手が勝手に勘ぐっているというケースも多々あります。

どんな言葉でも聞き手が一旦受け取るとそれは聞き手のものになります。その人がどうとろうが、それはその人の自由です。そしてどう受け取ったかそれを正直に表現しない限り誰にもわかりません。見え透いた挨拶に見え透いた笑顔で応えるのもそれは自由です。相手の好意を素直に受け取れないというのも言うなら自由です。

過去の経緯は別としても、今は真意をそのまま言葉にして伝えてるというケースは人間だからそれはありえます。人間は常に真実だけを語るわけではないですが嘘だけ言う人間もいないのです。今言っていることは本当のことだと、ところがそれが本当かどうかは聞き手はわかりません。

真意を言葉にしてそれが伝わらない場合と、真意を隠してその上で勘ぐられた場合、どっちも同じように起こりますが、前者の方がストレスが高くなります。だから真意を語ることの方がシンプルで楽であるというそういう単純な図式になりません。真意を語る方が傷つきやすいとも言えるかもしれません。それは真意と表現を乖離させるとまでいかなくても、上手にオブラートのくるむ大きな動機にはなりえます。

思っていることを言わない方が得だというケースも多くあります。聞き手に推し量らせることで実際言ったのと同じ効果を期待しつつ、責任は逃れたいとかいう場合に使われたりします。また相手が勘違いしているなと思っても、それが自分に都合が良ければそのままにしておくという手もあります。もちろんどこかでボタンのかけ違いは露見するのでしょうが、お前が勝手に勘違いしたんだろうということで終わらせられます。人によっては、いわゆるコミュニケーションのねじれとでも言いましょうか、これを積極的に利用したりもします。

いろんなケースについて触れてきましたが、表現と真意、どっちも一筋縄ではいきません。それでも人間社会では表現より真意の方が上位にあるという漠然たるコンセンサスはあるでしょう。表現は巧拙あるだろうが本当の心根が大切だと。その一方で表現は残ります。逆に真意は残りません。残らないどころか勝手にその姿を変えたりもします。そうなると真意はどうでもいいから表現あるいはそれに続く行動の方が重要だとそう考えてもそれはそれでひとつのまとまった考え方と言えるかもしれません。いずれにせよ真意と表現は表裏一体、どちらが上とも下とも、言えないものでしょう。

さてここまで長文を書いたわたしの真意は? それを聞いてはいけません。これだけの長文を読んだのですから、わたしとしてはひとつの表現はしているわけです。さてそこはどう受け取るか、あなたの順番です。ちなみに打ち返さなくて結構ですけどね。


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