さて我が家に連れ帰った受験生のこどもであるが、夕食をすませて早めに就寝してもらった。咳がでるし熱も少しある。明日も受験で、朝は早い。一段落かと思ったら、そこから騒ぎは起こる。なんと夜遅くになって、その受験生の子供を連れて施設に戻って来いという命令だという。園長が命令したのを職員が伝えてきたのだが、わたしは、こどもは体調が悪いしもう寝ているし明日は受験で朝は早いのだから動かせない、と言ったのだが、とんかく連れてこいと言うのである。理由は園長が職員の家にこどもを泊めるのは許可しないという。わたしだって泊めたく泊めてるわけじゃない。やむにやまれずの緊急避難だ。ちゃんと報告している。それで押し問答になって、そしたら深夜日付が変わってから園長と職員でこどもを取り戻しにわたしの自宅まで来るということになってかみさんはキチガイ沙汰だと驚いている。こどものことなんて心配していないのである。
そこでわたしは急遽施設に自ら乗り込んだ。逆に奇襲だ。フットワーク軽い。そして施設から、今戻りましたと園長の携帯に電話するとこどもと一緒かと勝手に勘違いして園長はわたしの家に向かっていたが施設に引き返してきた。会うなり開口一番、こどもはどこにいる? だいたいわたしは何も許可してないぞ。ハルトモ君は言った。あなたの許可なんかなくても必要なことをやるだけだ。あなたはどうせ自己保身でいっているだけだろう。子供は動かせる状態じゃないから渡せない。バトル開始である。そこから2時間押し問答言い合いになったが結局深夜二時半まで言い合いをしてわたしはこどもを渡さなかった。そんな状態じゃないのである。自宅に戻ると朝3時。
ようやく睡眠に入ると朝五時にかみさんがこどもの様子がおかしいと言う。すごい熱だと。測ると39.4℃、ぎゃーついに来たか。子供は這ってでも受験にいくと譫言のように言う。しばし休ませて、わたしは家のそばの懇意にしている医者を起こした。というか起きたばっかりだった。そこで無理に医院を開けさせて事情を説明して、まず解熱剤を与え、さらに状況からインフルの診断はまだできないが予防的に抗インフル薬を処方してもらえた。それを飲んでしばらくすると多少熱が下がってきたが、とても一人で歩ける状態じゃない。わたしは東京の受験大学まで連れていくことにした。とてもじゃないが満員の通勤電車には乗せられない。グリーン車である。こどもはグリーン車の階段で座り込んでいるが立っているよりはるかにましだ。それで最寄り駅から地下鉄に乗り換えるがそんなことしてられない。迷わずタクシーだ。ということで受験校に無事到着。そのあたりからかなり子供の調子が戻ってきた。なんとか受験できそうだと言う。それを見込んだのだ。なんとか行けばそこで次の展開が生まれる。おとなしくしていていくら調子が戻っても体がそこになければどうにもならない。熱も下がりせきも収まっている。校門から中は受験生以外は入れない。頑張れよと見送りわたしはまたタクシーに乗りグリーン車で帰路についた。
本当にこどもを園長の手に渡さずによかった。わたし以外こんなこと誰もする気もないしできもせんだろう、口ばかりの連中である。その子供は深夜の顛末を朝知った。そして試験場に入る前に受かったらハルトモさんのおかげだ、と言う。いや、試験を受けるのは君だ。わたしの役割はここまで、さあバトンを受け継げ!彼女はしっかりとした足取りで会場に入っていた。自分で感動しちゃったね。
最後に読者で気がかりに思う人間もいると思うので書いておこう。その子がインフルかどうかは現段階ではわからない。だが熱も下がり咳も治まりなおかつ厳重にマスクをしてさらに綿のマフラーを巻かせた。かみさんの高いマフラーである。こちらも必死であるがそこに最低限の気遣いがなければいけない。それが大切であるとやはり子供に教えたことになっていると思う。
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